http://otapol.jp/2014/09/post-1642.html命運を握るのはわずか30万人!? “単価の高いファン”が命綱のアニメビジネス
2014年9月25日
9月20日と21日に開催された京都国際マンガ・アニメフェア(京まふ)2014では、ファン向けの声優やアーティストのライブや物販が活況を呈している裏で、ビジネスセミナーが粛々と行われていた。今回は20日に「ビジネスサイドから見た『宇宙戦艦ヤマト2199』」と「テレビ東京のアニメ海外ビジネスの今」が開催された。
「ビジネスサイドから見た『宇宙戦艦ヤマト2199』」にはプロダクションI.G(以下、I.G)企画室執行役員の郡司幹雄さんが登壇した。『宇宙戦艦ヤマト2199』(以下、『2199』)のアニメ制作は同社のグループ会社であるジーベックが担当しており、I.Gは製作委員会の主幹事である。その中で郡司さんはビジネス周りの担当になっている。本稿では、アニメビジネスの実情をうかがうことができる貴重な当セミナーの模様をご紹介しよう。
『2199』は、劇場での最終章の上映とテレビ放送がオーバーラップしてフィナーレを迎えるという大々的な盛り上がりを見せ、経済規模は100億円を突破、パッケージ売り上げは50万枚突破とヒットしている。本作は映画館での上映とネット配信があるにもかかわらず、テレビ放送も好評で、ある地方ではアニメ放送で過去最高の視聴率を記録したとのこと。郡司さんは「ガンダムと比べると経済規模は15分の1だが、30年スパンでは異例の成功ではないか」と分析する。『2199』は小さい子供も見ていることもあって、プラモデルも売れているという。
■テレビ局と広告代理店の中抜きは誤解!? “製作委員会システム”の仕組み
郡司さんは分析を続け、大もとの『宇宙戦艦ヤマト』が放送された1974年と『2199』がスタートした2013年とでは、アニメをめぐる環境に大きな違いがあることを挙げる。
74年当時、アニメの放送枠にはスポンサーとしてナショナルクライアントがつき、アニメが30%の視聴率を取る時代だった。
基本的にナショナルクライアントは「CMが単価いくらで何人に届くか?」や「何回CMを見せられるか?」だけをCM出稿の判断材料としている。一方で、近年、アニメの年間平均世帯視聴率はジリジリと減っていて、05年には4.4%だったのが12年には2.8%にまで落ち込んでいる。
そこでアニメの製作方式として採られているのが、“製作委員会システム”である。アニメの制作費については、「スポンサー企業が広告代理店とテレビ局を通してアニメ会社に支払う」という流れがイメージされることが多く、アニメーターの薄給問題と絡めて、“広告代理店やテレビ局の中抜き”がネットで非難の的となっている。しかし、これは誤解で、ほとんどのアニメはスポンサーからのお金ではなくて、さまざまな企業からの出資が制作費となっている。これを“製作委員会システム”と呼び、アニメをテレビ放送するため、製作委員会が広告代理店を経由してスポンサー費用をテレビ局に支払うという、むしろ逆のベクトルになっている。
つまり、製作委員会システムでアニメを制作する際、出資社は制作費と放送枠料金、2重のリスクを負っていることになる。コア向けのアニメはこのスキームで、製作委員会にはアニメ制作会社だけでなく、広告代理店やテレビ局が入っている場合もある。なので、採算を取るために収益力の高いBlu-rayやDVDといった円盤(パッケージ)をファンが買ってくれることだけを考えている。必然、ターゲットに合致しにくく費用の回収が困難な(≒円盤が売れない)作品は作られない傾向にある。
しかも、アニメ業界全体で見れば一部のヒット作の売り上げで資金を回収しており、円盤の高い価格があるからこそ成立している、危うい状況に変わりはない【註:アニメのパッケージ商品はドラマなどに比べて、総じて高価格とされる】。また、子持ちのアニメーターは子供向けアニメを作りたいと言うようになるそうだが、そういう円盤が売れない企画は通らない現状を説明。業界では、実際にパッケージを購入するファンは30万人くらいなのではないかという話になっており、そもそも子供向けアニメではビジネスの俎上に載らないというのだ。
郡司さんはそれら上記の比喩として、現状のアニメビジネスを「お札で焼き芋を焼いているようなビジネス」と評した。これは特需成金の風刺画「どうだ明るくなつたろう」が元ネタになっているが、アニメに関しては特需でもなんでもなく、「お金があってもあっても足りない。1億(円)2億(円)すぐ吹っ飛ぶ」と、火の車に拍車がかかっているだけでしかない。
現在のアニメのパターンとしては、テレビシリーズは宣伝になっており、テレビ放送で人気が出たら映画にする。ここでも郡司さんは、円盤による回収モデルを前提に「(大々的に発表される)『DVD化決定!』とか、初めから出ることが決まってるんだけど」と、会場の笑いを誘っていた。http://otapol.jp/2014/09/post-1642_2.html■テレビの“宣伝”としての力は健在! 今、アニメ制作者が抱える危機感
『2199』の展開の流れは、バンダイビジュアルから提案があったという。『機動戦士ガンダムUC』の成功を応用して、映画・ネット配信・パッケージ販売を同時展開、最後に“最大のリスク”であるテレビ放送と、従来の流れと真逆にしたのだった。しかし、すでに流通している作品のテレビ放送にCM出稿がつくかはわからない。そのため、郡司さんは「流すCMがなければピザ屋のCMにしよう」と、実際にI.Gの1階で同社が運営しているピザ屋「武蔵野カンプス」のCMを実際に作りそうになったという裏話も披露。最終的には、MBSに“最後にテレビ放送を持ってくる”戦略を認めてもらって、自社のCM制作は回避された。それから先の視聴率の変遷と関連させ、テレビ自体が見られなくなっていることにも言及。“テレビの時代の終焉”ということにしたいのかもしれないが、やっぱりみんなテレビを見ており、テレビが取り上げてくれないと作品の認知が拡散しないと、その必要性を強調した。
アニメファンに対しての提言は、円盤の購入に限らない。郡司さんはコンテンツを取り巻く状況について触れ、「ものごとには全て原価があって採算が取れないものはなくなってしまうのに、コンテンツビジネスを論じる時は議題に上がらない」ことに疑念を抱いているという。
ファンからよくある要望の一例にも「もっと広告を打てばいいのに→制作につっこんだお金の3倍かかる」「地方でもイベントをたくさんやってほしい→地方に行けば行くほど赤字」「こんなグッズを作ってほしい→例えばラバーストラップは原油と中国での人件費の高騰」と、そこまでたやすくない事情を明かした。需要と供給の関係で夜行列車がなくなっていく現象によく似ていることにたとえ、“ファンが普段から乗っていれば夜行列車はなくならない”と訴えた。
コンテンツの宣伝をめぐる状況については、マザー・テレサの箴言「好きの反対は嫌いではない。無関心である」を取り上げた。ファンの間でやり玉に挙げられることも多いCV(キャラクターボイス)への俳優起用に関しても、ファンを怒らせるためではなくて、全く知らないものを見に来てもらうにはニュースにしてもらわないと始まらないと理解を求めている。
おまけとして、映画の興行の内幕では、観客が訪れた時の上映回の混雑度よりも、座席数と1日の上映回数が重要になるといった説明も。座席数200、1日1回、90%であるほうが盛況に見えるものの、座席数500、1日6回、平均30%で一見少なく見えるほうが観客数が5倍になるという算段だ。
最後に郡司さんは、ビジネスセミナーの参加者に向けて「アニメ番組のスポンサーになって、アニメビジネスの一端に参加してみましょう」と促した。全体的に赤裸々な印象を受けたセミナーだったが、このようにとっくに危機感を募らせた上でアニメが制作されていると知れば、さらに違った視点で作品を応援できるようになるのではないだろうか。続きを読む
posted by Kawakita at 06:31|
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